けいぼーです。今回の電子書籍ご紹介は、「貿易社長の教え〜台湾進出の検討材料として使える7つのポイント『こうすれば台湾ビジネスはうまくいく』〜」のです。

台湾
Pixaba.com

まえがきから

日本人には台湾好きが多い。多くの国民が台湾に親しみを抱いている。同様に台湾には親日的な人が多い。数字で見ると、2018年では台湾の人の6割近くが一番好きな国は日本であると答えている。

そういう相思相愛の関係に応えて、日本のカジュアル衣料店や飲食チェーン店などが多数台湾に進出して、ここ10年で台北の市内でかなり目立つ存在になった。最近ではコロナ禍によって撤退する動きもなくはないが、その中でも売上を伸ばしている企業もある。親日的な台湾の需要に応えた進出と言えよう。

一方、日本の製造業の進出も少なくない。2019年の対台湾投資額のトップは製造業で56%を占めている。そこで特徴的なことは、小売・外食業の相思相愛関係が、製造業においては日台双方の補完的関係になることである。補完的関係とはそれぞれがそれぞれの役目を果たすということである。本書ではその補完的関係が時代を追って変容してゆく様を見る。

第1章では、アメリカ輸出における日台の補完関係を「ゴールデントライアングル」という言葉で表現する。アメリカの「市場提供」、日本の「技術・設備提供」、台湾の「輸出志向型経済」という骨格である。

第2章では、台湾が中国に投資することによって、補完関係が変容するまでの過程を追う。アメリカの「市場提供」は変わらないが、「技術の日本」、「量産の台湾」となる。

第3章では、台湾人の親日感情を深掘りする。調査ではもっとも親日的世代は高齢者世代ではなく、30代である。それはなぜか。

第4章では、台湾企業の特徴である中小企業のOEMについて観察する。

第5章では、台湾人の特徴についてまとめてみる。

第6章では、日台ビジネスの現状と台湾進出のメリット・デメリットについて。

第7章では、ちょっと貿易を離れて、台湾で入院して知った「台湾の病院事情」を書いてみた。あまり見たことのないレポートだと思う。

本書は、台湾に興味のある方、これから台湾進出を検討している方、またすでに進出している方のために書いた。本書が新たなヒントとなり、参考になれば幸いである。

第1章から抜粋

第1章 台湾からアメリカが見える

かつて1980代前半に台湾に駐在した頃、数人の駐在員仲間の間で盛り上がっていた理論がある。それをゴールデントライアングル理論と言う。日本・アメリカ・台湾を結ぶ三角形の下に金が埋もれているという理論である。

ある駐在員は日本の機械関連メーカーの駐在員だが、合弁相手の台湾人社長が最近アメリカのアイスクリームメーカーと契約を結んだと言う。この駐在員は、機械関連商品を扱う企業が、なぜアイスクリームに手を出すのか理解できない。

ある駐在員は、といっても私のことだが、日本製品を台湾で販売することと、台湾製品をアメリカに輸出する仕事がメインである。

ある工業デザイナーは、日本にデザイン会社を設立し、自らは台湾に駐在して、設計した製品を台湾で生産し、日本とアメリカへ輸出していた。

この3人の関わる国が、日本・アメリカ・台湾という3国なのは偶然なのだろうかということになった。

ある日、台湾に頻繁に出張してくるメーカーの人間が加わり、4人で食事に行った時のことである。この人をA氏と呼んでおこう。A氏は「これは偶然ではなく必然です。そういう構造になっているのです」という。

彼は日本・アメリカ・台湾の3角形をゴールデントライアングルと命名しているという。基本的な構造として、アメリカは市場を提供する国である。日本は技術と設備を輸出する国であり、輸出相手国はアメリカと台湾である。台湾は日本から技術と設備を導入して、アメリカへ製品輸出をする立場である。

この3国の中でビジネスをしていれば、その下に金が埋もれているので、大儲けできると言うのである。3人が3人ともこの3国と関わっていたので妙にリアリティがあった。

この三角形に矢印を加えてみよう。まず物の流れであるが、日本からは、アメリカと台湾の両方に物が流れ出ている。台湾は日本から矢印を受け、アメリカに矢を射っている。アメリカは両者から射られるばかりである。

貿易収支を見ると、日本は対米・対台湾ともに黒字、台湾は対日赤字・対米黒字、アメリカは対日・台湾ともに赤字である。

技術の流れを考えてみよう。日本の技術は、もともとアメリカから来たものである。日本製品の多くはアメリカ製のコピーから始まった。しかし、時と共に日本は、台湾の合弁工場などその技術を渡してゆくようになる。技術の全部を渡さないで、簡単なものから手放すことになる。矢印を入れると、技術はアメリカ・日本・台湾の順に流れてゆく。

この技術の流れは、日本が出し渋りをしているようにも取れるが、そうでもないとA氏は言う。台湾は戦前に比較的工業化したけれども、戦後経済がテイクオフする前には労働集約的技術が台湾の技術の核だった。初めから日本並みの技術が入って来たら、台湾はとてもついて行けなかっただろうという。技術の視点でいうと、これで良かったのだという。

アメリカが市場を提供し、基礎技術を開発する基軸的役割を果たし、日本が応用技術の開発と設備提供による中間的役割を果たし、台湾が日本の設備と再転出技術を導入して、輸出指向型経済に徹する。これがゴールデントライアングルの骨格なのだという。

このベースの上に加わるのが日米貿易摩擦による円高である。日本とアメリカは何回も貿易摩擦を繰り返し、日本の通貨は円高となり、日本は自主規制をして輸出を減らした。そこで日本企業の対米輸出を支えたのが台湾の合弁工場である。結果として、台湾の対米輸出は増加することになる。この当時の台湾の貿易黒字について見ると、83年以前は台湾中小企業の固有の黒字であり、この日本の第2チャンネルに使われたファクターが加わるのは85年以降である。

台北

この議論は今から40年前の議論である。

先ほどの工業デザイナーは、「台湾にいると、世界がよく見える。特にアメリカがよく見える。日本からはとても見えなかった」という。そして「台湾はまるで扇の要(かなめ)のようだ」という。世界が台湾から広がっているようなイメージがあり、「なるほど、世界の構造はそうなっていたのかと実感する」と言うのである。

現在日本と台湾の貿易構造をゴールデントライアングルだけで語ることはできない。中国の存在が出てきたからである。中国が貿易の相手として浮上してきたのは90年代のことだが、中国は世界の生産工場になり、同時に一大市場になった。この現状を無視できない。しかしながら、アメリカが市場を提供し、日本・台湾が輸出する構造は40年後の現在も変わりはない。ゴールデントライアングルは今も日本と台湾の貿易の骨格だろうと思う。

このように、台湾に進出すると見えてくるものがある。それはアメリカである。日本から見るアメリカとは違って、アメリカが構造的に見えるのである。

因みに、日本の貿易相手国を調べると(2020年度)、

・輸出相手国 1位アメリカ、2位中国、3位韓国、4位台湾

・輸入相手国 1位中国、2位アメリカ、3位オーストラリア、4位台湾

どちらも台湾が4位に入ってくるところが面白い。このことは一般的に言って、企業はアメリカ・中国に輸出入を依存していて、台湾との取引が補完的構造である可能性が高い。

補完的とは、台湾に進出することによって、米台間、米中間の複合的ビジネスへの展開が期待できるのである。4位であっても台湾の価値は高いのではないか。

また、台湾からアメリカが構造的に見えることは、若い人の教育の場としても向いていることになるのではないか。

それではアメリカのことはここまでにして,次の章では、中国の話をしてみよう。

お買い求めはこちらから

おすすめの記事